いつまで続くの?

 『アシスタント』を観た。

 主人公であるジェーンが不条理に抗う声を奪われていく様がリアルだった。フィクションだけれどジェーンの身に起こったことを誇張せず淡々と描いている点がドキュメンタリーのようだった。

 

このプロジェクトでは、実際に多くの映画業界で働く女性たちに話を聞きました。もしそれをドキュメンタリーとして撮影していたら、彼女たちがただ「嫌な思いをした」と愚痴っているようにしか見えなかったかもしれません。でも俳優を起用することで、ボスの問題行動や、同僚からの性差別的な扱いが、ジェーンにどんな影響を与え、どんな気持ちになるのかを言外に見せることができる。彼女の旅により共感してもらえるようになるんです。

 

と監督は雑誌のインタビューで語っているけど、彼女の目論みは見事に的中していると思う。俳優たちによって現場が再現される事で、観る側の記憶も蘇る。蘇った記憶と画面の中で起こっていることを照らし合わせ、自身の身に起こったことの意味を考えてしまう。私自身身に覚えのあるシーンが多々あり、終始心臓がバクバクしていた。

 再現の仕方も徹底している。

 

今回は日常的な性差別など、無視されうるような瞬間にも目を向けたいと思って。フィクションならクローズアップや音響を使って、些細な瞬間を強調することができます。小さなディティールをあえて大きなスケールで見せることで、問題の深さを伝えたかったんです。

 

という監督の言葉の通り、細かなところまで演出が行き届いていた。その中でも最も印象的なのが、社内相談窓口のウィルコックとのシーンだ。

一連のやり取りの後、ウィルコックがジェーンの言葉を書き留めたメモ用紙をくしゃくしゃと丸める音が強調されているように感じた。それは言葉にはできないジェーンの心理状態を物語っているかのようだった。このような本当に些細なことが積もりに積もることで、人の心は蝕まれていく。静かに心を蝕まれてしまったジェーンには、何気ない音が暴力的に感じられてしまったのではないかと思う。

 

 とても人ごととは思えなかった。これは私自身の物語であり、働く中で違和感を抱いたことのある全ての人の物語だ。一体いつまでこんなことが続くのだろう。気が遠くなる。