7月27日 東京ミッドタウン

 東京ミッドタウンとは夏に縁がある。

 開業した年に、母と妹、祖母と親戚の女性と行った記憶がある。あれは確か夏のことだったと思う。おろし立ての黒のワンピースを着て、六本木という初めての街に思い切りはしゃいでいた。目の前にぐんと迫るビル群を前に怯みながらも、体にははち切れんばかりの興奮が満ち満ちていた。

 六本木をひとしきり巡った後、せっかくならできたばかりのミッドタウンで昼ごはんを食べようということになった。けれどいざ行ってみると高い店ばかりで、とても入れそうにない。しばらく館内を見て回っていたら、ちょうど良さげなパスタの店があったのでそこで食事をすることになった。残念なことにその店の料理は全然美味しくなかったのだけど。

 それから十数年後、去年の夏、もう一度足を運ぶことになった。

 国立新美術館での展示を見てから、炎天下をあてもなく歩いていた。すると一緒にいた友人が、「ミッドタウンにビルボードあるの知ってる?」と気になる話を持ちかけてきたので、そのままミッドタウンに行くことにした。

 ビルボードの中には入れなかったので、入り口付近をぐるぐる歩き回った。秋にここでやる誰某のライブに行くと友人は言っていた。全然知らないミュージシャン。私が知らないジャンルの音楽をよく知っていた。逆に、私は友人が知らない音楽をよく知っていた。お互いが知らないことを補い合うのは面白かった。

 することもないので、エレベーターでするする下の階へと降りていく。途中、大きくて美味しそうなケーキが並んだ店があり、そこでお茶をしようとした。しかし店内にいる人がみなお洒落なことに怯み、諦めた。「お呼びでないな」とぶつぶつ言いながら、また下の階へとするする降りていく。その間も色々話していたけど、どんな話をしたのだったか。本当にたわいもないことだったのだろう。何しろ今、一つも思い出せないから。

 それから約1年後、今日またミッドタウンにいた。ふと思いつきで行ったので、ノーメイクのボサっとした出たちであいまみえることとなってしまった。なんだ、こんなことならもっとしゃんとしておけばよかった。

 館外のちょっとした広場にあるギャラリーで展示を見てから、ベンチでしばしぼーっとしていた。風がさわさわ木を揺らしている。昼間の暑さが嘘のように涼しい。目の前で子供が、「このセミお気に入りなの!ミンミンゼミ」ともう1人の子供に熱弁を振るっている。しかしその"セミ"の一言が私を一気に現実へと引き戻した。静寂は破られ、ワンワン響くセミの鳴き声が耳に入ってきた。頭が痛い。私はヒグラシが好き。

 せっかくだし一駅分ぐらい歩こうかなと思ったけど、広場を抜けた途端、暑さがぬうっと迫ってきたので諦めた。遠くでセミの鳴き声が聞こえる。